縫いとじられない赤い糸

小奇麗な言葉で曖昧にごまかすのにはほとほと疲れてしまったから。そろそろ本当の話を始めませんか。身もふたもない、本当の話を。

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夜の道

陽も落ちかけた 誰もいなくなった公園の
ユラユラ揺れるブランコと
置いてけぼりの砂の城


鬼さんこちら 手のなる方へ
鬼さんこちら 手のなる方へ


ひとりぼっちの影ふみ遊び
追いかけても追いかけても
逃げていくばかりの自分の影


鬼さんこちら 手のなる方へ
はやく来て来て 捕まえに


鬼さんこちら 手のなる方へ
手のなる方にはなにがある



西の空には折れそな三日月
ぽつんとひとつ



淋しくなんかないよ
なんて強がりは 二度と口にしません





勝ってうれしいはないちもんめ
負けてくやしいはないちもんめ


あの子がほしい
あの子じゃわからん
相談しましょ
そうしましょ


勝ってうれしいはないちもんめ
負けてくやしいはないちもんめ


あの子はいらない
あの子じゃわからん
相談しましょ
相談 いらない
いらない子はあたしです




かごめかごめ
かごの中のトリは
いつまでたっても出会えない
よあけのばんにつるとかめ
すってんころりんころがって
いたいよいたい
うしろの正面 だれでしょね
うしろの正面 だれでしょね



ケンケンパッパ ケンパッパ
待ちあぐね 待ちくたびれて ケンパッパ
いつの間にやらあたりは夜で
青白い街灯 灯りだす


ユラユラ揺れてる影法師
どうか家路を照らしてよ
あたしを待つ場所 照らしてよ


迷子の迷子の仔猫ちゃん
あなたのおうちはどこですか
捨て猫預かり場所ならここですよ
おまわりさんはわらいます
おまわりさんはわらいます



誰も見つけにこないかくれんぼ
もういいかい まあだだよ
もういいかい もういいよ
どんなに叫んでみたって
こだまするのはただ 自分の声ばかり



もういいかい もういいかい
まあだだよ まあだだよ
もういいかい もういいかい


もういいかい




頭上にはいつの間に
折れそな三日月



ぽつんとひとつ





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原風景 | コメント:0 | トラックバック:0 |

傘がないわけじゃないんだけどさ


カーテン開けたら 外は雨降り
こんな日は決まっていつも
君が残していった古いレコード盤に針を落す
心地よいノイズに混じった美しいピアフの歌声に
気だるい気分で僕はもう一度ベッドの中にもぐりこむ
頭からすっぽり毛布を被って
今日はもう誰とも会いたくなくって どこへも行きたくなくって
降りしきる雨にすべてを投げ出してしまいたいような
そんなそんな そんな気分だったんだ
   

そういえば 君と会うときは何故だかいつも
雨が降っていたような気がする
待ち合わせだった吉祥寺の駅前で
水色の傘をくるくるまわしながら
君は僕を待っていてくれたよね
井の頭公園をぶらぶら歩いていたら
突然どしゃぶりにやられてさ
君ったら何を思ったのか急に傘を投げ出して
きゃっきゃ きゃっきゃ云いながら
まるで水を得た魚のように急に踊りだして
僕の手を取って 二人馬鹿みたいに雨の中で笑いあった
次の日には二人して風邪ひいて38℃の熱出してさ
あのときの病院の先生の呆れ顔 いまでもよく覚えてるよ


雨が降るといいことがあるのよって 君はよく口にした
君に出会えたから僕も雨が好きだよ
僕がそういうと 君は少しだけ笑った
悲しいことは全部ぜんぶ この雨に流してしまおう
聞きたくないことはぜんぶ この叩き付ける雨音にかき消してしまえ
そうして天気のいい日には 
二人濡れた心を干しあって 乾かしてしまえばいい
降り注ぐ太陽は 僕たちにはほんの少し眩しかったね

   
          愛の賛歌っていう歌 知ってる?
          あれ本当は 死んでしまった恋人への嘆き悲しみを歌った歌なのよ


          ねえ もしアタシが死んだら
          アナタ 嘆き悲しんでくれる?
   
          冗談とも本気ともつかない調子でそう君が聞くもんだから
          君がいなくなったら 僕はとても生きていく自信なんてないよってさ
   

          君はふっと笑って アナタは生きてくれなきゃダメよ
          だって アナタが死んでしまったら
          誰がアタシを 思い出してくれるの?
          忘れないでいてくれるの?

          
          だけど 僕の方が先に逝っちゃうかもしれないじゃないか    


          軽いジョークみたいにそう云おうとして僕は 言葉に詰まった
          君があんまりキレイに笑うものだから
          僕はそれ以上 何も云うことができなかったんだ




1ヵ月後
君は新宿のど真ん中
高層ビルの屋上から飛降りて死んだ
その年一番の記録的豪雨が降りしきる
そんな夕暮れの出来事だった



いつもと変わらない朝を迎えて
いつもと変わらないあいさつを交わし
いつもと変わらない くだらない話をして
いつもと変わっていたことといえば
その日の君は 傘を持って出ていかなかったってこと
君がお気に入りだった あの水色の傘を


本当に死んでしまうなんて
冗談だろ 嘘なんだよな
いつもの悪ふざけなんだろ
どこか そこらへんに隠れていて
僕を驚かすつもりでいるんだろ
ねえ なあ ねえ ねえってば


本当にもう 君はいないの
僕の前から姿を消してしまったの
わからない わからない わからない
何が君を死に向かわせてしまったの
何をどう考えたらいいのか
理解することも否定することもできないんだ
ただもう 君はいないんだってことだけが
ぼんやりといた僕の頭の中で見えている明確な事実だった


          雨の日にはいいことがあるのよって
          いつか君は云ったよね
          君にとってのいいことっていうのは
          こういうことだったの


その答えを僕は あの時からずっと探してるんだ
君と過ごしたいくつもの日々の中に
君と交わしたいくつもの会話の中に
二人の間に降りしきっていた 幾筋もの雨粒の中に
   


           ねえ もしアタシが死んだら
           アナタ 嘆き悲しんでくれる?


           アナタは生きてくれなきゃダメよ
           だって アナタが死んでしまったら
           誰がアタシを 思い出してくれるの?






いま ようやくわかった気がするよ
君は誰かの思い出になりたかったんだね
君のために涙を流し 悲しみに明け暮れ
君がいない現実に耐えられず 発狂してしまいそうにさえなってしまう
それほど強く 誰かに思っていてほしかったんだね
だけど だけどさ
君はあまりに急ぎすぎたよ
君の肩に降る雨と 僕の肩に降る雨は
いつだって同じ温度だったはずなのに
あの日もこの日もどの日だって
いつだって優しかったはずなのに
北風吹いてたって温かかったはずなのに


ひとりぼっちで見る雨なんて
あまりにも感傷的すぎてやりきれなさすぎるよ
雨音が君の足音みたいに聞こえて
いまにもそのドアを開けて入ってきそうでさ
でも ドアを開けたってもう君がそこにいることはないんだね
この部屋に入ってくることもないんだね




雨脚はさらに強くなってきたよ
ノイズまじりのピアフは
雨によく似合う


君は僕の思い出になってくれたんだね
決して忘れることのない永遠の思い出に




時計の針は午前8時を遠に過ぎている
急いで仕度したって
もう間にあいそうにない
とても間にあいそうにない


だから僕は 今日はじめて 
無断欠勤をしたんだ





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雨音と古いレコードと | コメント:0 | トラックバック:0 |

届かない

言葉にしたからって何も救われやしないのに
A4用紙にべっとり貼り付けたこの肥大した自尊心を

どこへもぶつけようがなく 誰にもあてようがないから
とりあえずぐしゃぐしゃに丸めて ゴミ箱に放りなげてみた




5センチほど手前で ぽとりと落ちた






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依存症

泣きたい理由でもないのに ボロボロ涙がこぼれてる
悲しくもないのに 悲しい何かを探してる
退屈とため息と他には何もない 静まり返った部屋の中
置き去られた子供のように うなだれて膝を抱えた女がひとり


ずっとひとりでいればよかったのよ
そうすればこんな思いもすることなんて きっとなかった
最初は週に1度か2度だった君の電話が
いつの間にか毎日に変わっていって
それこそ朝から晩まで1日中
君の声を聞かない日がなくなっていった
君は自分の話に夢中になると
少しまわりが見えなくなるタイプだったけど
くだらない話をしては よく笑い合ってた


心の弱い君だから
いじめられた小学生みたいに
打ちひしがれた声で掛けてくるとき
他に話を聞いてくれる人がいないんだ
なんて そんなことを云ったりするものだから
あたし なんだかちょっと
必要とされてるみたいで嬉しくて
それに 誰にも話を聞いてもらえない淋しさは
あたし 一番よく知ってたから
話を聞いてあげることくらいしかできないけど
それで少しでも君の心が楽になるのなら
それならって


だけど 君はそうじゃなかったんだよね
別に誰でもよかったんだよね
たまたま つながる相手があたししかいなかったから
そうしてただけだったんだよね
一生懸命に君の話に耳を傾けてさ
必要とされてるなんて 勘違いもいいとこだわ
バカねあたし ホント バカバカしすぎて笑っちゃう


どれだけ言葉を尽くしても
どれだけの時間を共にしても
縮まらない距離もある


ひとりとひとりは
いつまでたってもふたりにはなれないってことくらい
それくらいのことはよく解ってたつもりだったけど


一体あたしたち これまで何を語ってきたのかしら
何もひとつも 届いていなかったのね
あたしの話をなんて聞いていたの
腹の中で 本当は笑っていたの
君にとってはただの暇つぶしだったかもしれない
それでもあたしにとっては
あたしにとっては......
今更なにを云ったところで 虚しくなるばかりね


君があたしを必要としていたんじゃなくて
本当は あたしのほうこそ
君を必要としていたんだわ
必要とされる必要が
どうしてもあたしには必要だった
君がそうしてくれるような気がして
求めていたのは あたしのほうだったんだね


どうしてあたしなんかに関わったりしたのよ
君があんなに何度も何度も電話してきたりなんかするから
余計な期待なんかさせるからいけないんだよ
ひとりなら 淋しくても気にしないでいられたのに
いまじゃ君が置いていった余計な淋しさまで 
くっきり浮いて見えるんだよ
どうしてくれるんだよこの気持ちを
知り合う前のあたしに戻してよ
あの頃のあたしを返してよ


胸のあたりが息苦しくて
うまく呼吸ができないよ


おかしいな おかしいよ
こんなふうになっちゃうなんてさ


静かすぎる部屋にはとても耐えられそうにないから
大音量で聴くんだ エレカシを
がんばろうぜと歌うミヤジの声が優しすぎて
優しすぎて 思わず思わず泣けてくる
ボロボロボロボロ 涙があふれて止まらない


悲しくなんかない 悲しいわけなんかない
いなくなるのはいつだって相手のほうで
いつものパターン よくある話


言い聞かせるように何度も何度も
呪文のようにつぶやいてたそのとき


ふいに ケイタイの着信音が鳴り出した






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生活

今日も一日中パソコンの前に座り込んだまま
生まれもしない言葉を待ち続けて
何時間も何時間も白紙の画面とにらめっこしていた
こんなことに時間を費やしている場合なんかじゃ
ホントにホントはないんだけれど


このまま死ねたらいいのにと
毎日毎晩のように考えてしまう
大量のクスリと強いお酒で
眠ったまんま 目覚めなければいいのに
そんなこと考えるのも もう疲れちゃった
はやく終わらせてしまいたい
何もかも全部
そうやって1日 また1日と
ただ日々を消化不良している毎日
くだらないと笑ってみたって
鏡に映るのは 卑屈に歪んだ顔ばかり


どんなに動かないで一日じっとしていたって
お腹は正直にグーグー鳴るし
冷蔵庫に残った食材は
使いかけのたまねぎとなす1本とにんにくひと欠片と
なぜか大量に買いだめしたカレールーがあるきりで
ああ もう日が暮れるのか
そろそろ買い出しにでも出かけないとなあ
思いだけが立ち上がっても
からだがちっともついてこない
もう1ヶ月以上もこんな日々の繰り返し


夜になったらなったでうまく眠れないし
布団にもぐって眼をつぶっても 気が滅入るばっかりでさ
いつだったかな 暇つぶしにやってみたの
あるでしょほら ネットで出来る鬱病チェックってやつ
やる項目やる項目ほとんど当てはまっちゃってさ 
「ネットなんかやってる場合じゃないよ
早く病院行ったほうがいいんじゃない」って診断されて
それも一箇所だけじゃないの
5、6箇所サイト巡って試してみたんだけど
どれもこれもことごとく「重症です」って云われちゃってさ
なんだか急に不安で心細くてたまんなくなってきて
一度ちゃんと心療内科で診てもらって
薬でも処方してもらった方がいいのかなって
電話番号までは調べたの 調べたんだ
なのに なのにね


電話をかけるくらいなんだっていうの
それくらい私にだってできるもんね
ふんだ ふんだ
強がって受話器を手にしてみたものの
なんて云ったらいいのかわからずに
結局はおっかなくて 
またすごすごと受話器を戻す


何もできない自分に腹がたって腹がたって
腹がたつというエネルギーを消費したせいで
余計にお腹は空いちゃうし
近くにあった麦チョコ頬ばってみても
口いっぱいに広がる甘さだけじゃ
何ひとつ満たされなくて
重いからだをどうにか起こして
近所のスーパーに向かったの
引きずるようにして歩いていたらね
信号待ちの車の助手席に
レモンのかぶりものした人がいて
私思わず笑っちゃったのよ その人見ながら
それに気づいたのかその人も
私の方に向かって手を振ってきてさ
どうしていいんだかわかんなくなって
とっさに眼をそらしちゃった
ああいうときはやっぱり 私も手を振った方がよかったのかな





青が点滅し出した 
スーパーまであと50歩ちょっと
自分でも笑っちゃうんだけど
なんだか無性に スキップでもしたい気分





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彼女たちの事情 ~愛しすぎる女たちのうたう詩~

不眠症のユウコは今夜も大量のクスリを飲んでは
ヘロヘロ状態

潔癖症のさなえは自分の周りが汚れているのには我慢できないくせに
もう1週間も頭を洗っていない

マユミは食べることを抑えられなくて
埋まらない淋しさを1万円の食糧に換えてみても
積もり積もった後悔のために 今日もトイレで吐き続けてる

みゆきは男に振られるたびに自殺未遂を繰り返す
生きてても意味がないのよとためらい傷だらけの左手首が自嘲ってる

虚言癖のエミリは いつでもお姫様気取りで
何人の男と付き合ってきたか
何人の男を振ってきたか 自慢げに話す
ホントは誰一人としてまともに付き合ったことなんてないくせに
 
買い物依存症のかずみは いつもイライラしていて
ブランドものに囲まれていないと安心できずにいる
プラダやエルメスに埋もれながら
膨れ上がる借金返済のため 夜のバイトを始めようかと検討中




          思えば子供のころから ぐっすり眠れたためしなんてなかったわ
          家の中はいつもごたごたしていたし
          いろんなものが壊れていく音が聞こえていたから
          我慢して眠りなさいと 母はそれ以上係わりたくないといった感じだったし
          仕方がないから無理矢理目を瞑ったけど 眠れるわけなんかなかった
          暗い天井をずっと見つめていたら 得体の知れないものたちが
          なにやらうようよ蠢いているように見えて
          怖くなってふとんをすっぽり被って 
          大丈夫 大丈夫 なんてことない なんてことないって
          まるで何かの呪文かおまじないみたいに
          何度も何度も そうつぶやいていたわ
          やがて疲れて眠ってしまうまで
          あのころからはじまってしまった不眠症は
          1日分の睡眠薬くらいじゃビクともしなくなってしまった
          強い薬と強いお酒で意識を失ってしまえれば
          何も考えず 耳障りなあの音あの声を思い出さないでいられるなら
          他のことはもう 全部どうでもよかったのよ
          どうでもよかったの



          誰が使ったのか 誰が触ったのかわからないものなんて
          気持ち悪くて 絶対に触れない
          ジュースの回し飲みなんて よくみんな平気でできると思うわ
          古着とかビンテージものとかいって
          いかにも付加価値があるように思わせてるけど
          要は人のおさがりじゃないの
          どんな人がどういうふうに着ていたのかもわからないのに
          お洒落ぶっちゃって 何が格好いいよ
          そんなものに高いお金使っちゃうなんて ホント馬鹿じゃないの
          部屋が散らかってても平気な人とか 頭がおかしいんじゃないかと思うわ
          足の踏み場もないほど物であふれかえった部屋の中じゃ
          とても息なんかできないの
          なのにみんな あたしのほうがおかしいって云うのよ
          1週間も頭を洗わないで平気でいられるなんて信じられないって



          痩せてなきゃ かわいくなけりゃ
          他になんにもないあたしなんか
          誰も振り向いちゃくれないわ
          ああ あごの肉が気になるわ
          もっとウエストを細くしなきゃ
          手も足ももっともっと華奢でなくっちゃ
          綺麗にさえなれば きっとなにもかも上手くいくはずよ
          あたしには2つ下の妹がいたの
          あたしたちは姉妹なのにちっとも似てなくて
          あたしはグズでのろまで何をやってもダメダメだったけど
          妹は要領がよくて なんでもすぐに出来てしまう子だった
          顔も妹のほうがずっと可愛らしい造りをしていたから
          両親からはいつも なんで姉妹なのにこんなにも違うのものなのか
          やっぱり駅のコインロッカーで拾ってきた子だからかもしれないな
          なんてあたしに向かって 真面目な顔して云っていたっけ
          思い出さなくてもいいこと また思い出してしまった
          それで今日も 1万円も食糧を買い込んでしまった
          痩せなきゃ綺麗にならなきゃって思えば思うほど
          反比例するみたいに 食べることを抑えられなくなるの
          だってあたしには何もないんだもの
          くだらない人間でしかないんだもの
          食べてるときだけは安心できるの
          けど そのあとはいつも
          ものすごい罪悪感に苛まれるわ
          「お前はやっぱりダメだ」って両親のがっかりした声が聞こえてくるの
          吐くのはだから 自分への罰なのよ



          さっき彼から電話があったの
          他に好きな娘ができたんですって
          それにもうお前の面倒は見切れないとも云っていたわ
          どうしてそんなことを云うのか あたしにはまったく理解できなかった
          彼はとてもやさしかったし 愛してるとも云ってくれた
          何度も何度もそう云ってくれた
          あたしは彼に好かれようと一生懸命努力してきたのに
          髪型も服装もメイクも彼好みにしてきたし
          音楽だって 好きなバンドじゃなかったけど
          彼が好きだっていうから毎日のように聴いたわ
          本当は戦争ものや暴力シーンの多い映画なんて観たくなんかなかったけど
          彼が好きだったから あたしも好きになろうと努力してきた
          してきたつもりだったのに
          あたしにとっては彼だけがすべてだったのに
          彼はあたしを見ながら
          いつももっと遠くを見ているみたいだった
          いつかこんな日が来てしまうことは解っていたわ
          でも解らないふりをしてきたの
          今度はきっと 今度こそきっとうまくいくはずだって
          なのにどうしてなの? どうしてみんなあたしの前からいなくなるの
          もうあたしはいらないってことなのね
          わかったわ わかった いなくなってあげるわ
          あなたがいないのなら 生きてたってしょうがないもの
          安全剃刀を左手首にあてがい 一気に引いた
          みるみる真っ赤な血があふれてきたわ
          生ぬるい温度が腕を伝って少し気持ち悪かったけど
          頭の中はとっても冷静だったわ 自分でも驚くほどね
          そうしてもう一度彼に電話するの
          あたし今さっき 手首を切ったのよってね



          両親からはとても大事に育てられたのよ
          パパは欲しいものなら何でも買ってくれたし
          料理好きのママが作るごはんは世界一だったし
          あたしのためによくケーキやクッキーを焼いてくれたわ
          誕生日会だって毎年やってくれて
          クラスのほとんどの子がお祝いに来てくれたのよ
          それも沢山のプレゼントを抱えて
          はじめて男の子に告白されたのは小学4年生のとき
          格好よくて頭もよくて運動神経も抜群で
          女の子たちから一番人気のあった男の子だった
          はじめて付き合うようになったのは中学1年のとき
          ひとつ上の先輩から告白されて 付き合うようになったわ
          あたしに告白してくる男の子は ひとりやふたりじゃなかったのよ
          みんなとてもやさしかったし 
          あたしの云うことはなんだって聞いてくれたわ
          「いま、ひとりぼっちなの」なんてちょっと甘えた声で電話すれば
          必ず誰かしら駆けつけてきてくれたわ
          だから淋しいなんて思ったことは一度もないの
          そう ただの一度だってね



          いらっしゃいませ
          いつもご贔屓ありがとうございます
          お客様のために特別にご用意している品がございますのよ
          こういったデザインのものなど いかがですか
          スタイルのおよろしいお客様でしたら
          絶対にお似合いになると思いますよ
          ご試着なさいますか ありがとうございます  
          このお洋服でしたら たとえばこういった色柄のものなど合わせると 
          お顔の色もとってもきれいに見えますし
          いま履いていらっしゃるスカートともとてもよく合うかと思いますよ
          お買い上げでございますか いつもありがとうございます
          毎日毎日ストレスが溜まってしょうがないのよ
          仕事のできない後輩の面倒を見るのも
          ミスの尻拭いをさせられるのも全部あたし
          ちょっとばかり可愛いからってちやほやされて
          一体何をしに会社にきてるのかしら
          あたしがどれだけフォローしてあげてると思ってるのよ
          課長も部長も 同期入社のあのさぼり常習男も
          みんな鼻の下のばしてデレデレしちゃって
          めんどくさい仕事は全部あたしに押し付けるんだから
          まったく やってらんないわよ
          なんて 面と向かって云えるわけもなく
          嫌なことも嫌と云えるわけもなく
          だから ここにくるととても満たされるのよ
          このお店にとってみたら あたしは上お得意様なわけで
          すごく大事にされるし 特別扱いだってしてくれる
          もちろん 買わせるためにおだてられてるってことくらい解ってるけど
          これもお似合いですね あれもお似合いですね
          なんて云われて悪い気はしないもの





愛したいのに愛し方がわからない
愛されたいのに愛され方もわからない
だけど だからかもしれない
あたしの嗅覚がどうしようもない人を嗅ぎ付けてしまう
あなたはとってもかわいそうな人
今までずっと ひどい目にあって生きてきたのね
誰にも理解されず ずっとひとりで苦しんできたのね
あたしには解る あなたの苦しみも傷みも全部
あたしだけが あなたを守ってあげられるわ
だからもう 何も怖がらなくていいの
そんなふうに怯えた目をしなくてもいいの
大丈夫 大丈夫
あなたはもうひとりじゃない
あたしがいるわ
あたしがずっと そばにいるわ

時々あなたはあたしに手をあげる
それはきっとあたしが悪かったからね
そういうときのあなたの気持ちを ちゃんと解ってあげられなかったから
あたしのことも解ってほしいなんて
そんな大それたことを ほんの1ミリちょっとも考えてしまったから
ねえ そうよね そうなんでしょ
あなたはとてもかわいそうな人
あたしだけは あたしだけはあなたを解ってあげなくちゃ
ひどく暴れたあと あたしに抱き付いて泣きじゃくるあなたは
まるで大きな赤ちゃんみたい
ずっとずっと あたしだけの赤ちゃんでいて

いつも怯えてばかりいたあなたは
いつの間にかどこかへ消えてしまったみたい
生きがいとかやりがいとか
そんなものが見つかったとかなんとか云っては
自信ありげに笑ってみせるあなたに
あたしは戸惑うばかりで
あなたに対して抱いていたやさしい気持ちも
なんだかとても白々しいものに思えてきて
同時に なんだかとっても苦しくなって
急に何もかも返してもらいたい気持ちになって
求めずにはいられなくなった
イヤな女だってことは自分でもよく解っていたけど
でも 止められなかった
お前なんかもういらない必要ないと放り出されてそれっきり
あの人は どこか遠くへ消えてしまった
泣いて喚いたって もう誰にも届かない
束の間でもこの心の空白を埋めることができるものならなんだって
それがクスリだってお酒だってリスカだって
買い物だって嘘だって なんだって
誰がそれを責められるというの
誰がそれを嘲笑えるというの
生きなけりゃいけないと 
それが生まれたものの義務だと人は云う
云うだけなら誰だって出来るのよ
責任がないからなんだって云えるのよ
望まれて生まれてきた者もいれば
誰にも祝福されずに生まれた者だっている
生きろと そう詰め寄る貴方が救ってくれるとでも?
心にぽっかり空いてしまった空白を埋めてくれるとでも?
そうでないのならせめて何も云わず
そっとしておいてもらえないかしら
お願いだからこれ以上
生き辛さを加速させないでほしいのよ







眠れない夜 パソコンに向かって
「死にたい」と検索してヒットする件数7,370,000件
だからって別に どうっていうことはないのだけれど



分裂した精神は 今夜も散り散りのまま
どこにも着地することもできずに
秒針の音ばかりを ずっと気にしている





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