縫いとじられない赤い糸

小奇麗な言葉で曖昧にごまかすのにはほとほと疲れてしまったから。そろそろ本当の話を始めませんか。身もふたもない、本当の話を。

シミ抜きお願いできますか


土曜の朝 午前6時
寝不足気味の眼を擦りながらカーテンを開けてみれば
そんなあたしを嘲笑うかのような 雲ひとつない晴れやかな空


昨夜食べ散らかした 冷めてしまったデリバリーピザ
コロコロ転がり落ちてるチューハイの空き缶
書きなぐっては書き損じ くしゃくしゃに放り投げた詩に損ないの言葉たち
拭えないちゃちな自尊心と中途半端な自己犠牲 怠慢極まるこの生活
笑いにもならないダメダメなあたしのすべてを
曝け出すキラキラの朝


昨日 失敗してこっぴどく叱られました
おとといもさきおとといもその前の日も
このところずっと
同じところで同じような失敗ばかり繰り返しているのです
みんなあきれているにちがいない
なんでこんなこともできないの
なんで同じような間違いばかり繰り返すの
みんなが見てる みんなが笑ってる
そんなふうに見ないでよ そんなふうに笑わないで
解ってるの 解ってるの
学習していないわけじゃないのよ
そういうんじゃないの
だけど なんだか
なんだかこのごろおかしくて
おかしくてなんてそんな
言い訳にもならない言い訳を持ち出せるわけもなくて


そんなに出来ない奴だったの
なんでそんなに失敗ばかり繰り返すのよ
もうがっかりした うんざりした
ただ一生懸命なだけじゃダメなんでしょ
そんなの社会じゃなんの役にもたちやしないのよ
結果がすべて 
過程なんて問題じゃないの


だから逃げたのです
もうこれ以上 ダメな自分突きつけられるのが嫌だったから
もうこれ以上 そんな自分思い知らされるのが嫌だったから


鍵をかけた部屋にこもって 誰にも会わず電話にも出ず
ひたすら音楽ばかり聴いて過ごしました
音のない部屋は 誰かのせせら笑いが聞こえるようで怖かったから
ただひたすら 好きな音楽ばかり聴いて過ごしたのです
おなかが空いたらコンビニへ行って
それ以外はどこへも出かけませんでした
晴れた日は憂鬱でした 責められているような気がしたから
だから雨の日はほっとしました
蒲団にもぐっては 眠ったふりを続けました
そうしているうちに日は暮れて 夜が訪れます
眠れない日々が続いたけど
自分を正当化できる いい理由ができたと思いました
クスリが効いて眠くなると このまま目覚めなければいいと
それこそ毎晩 祈るような気持ちで
それでも毎日 朝はやってきました


結局あたしは どこへ行こうとしていたのでしょう
どこへ逃げようとしていたのでしょうか
どこまで行ってもついてくる ダメなあたしがついてくる
逃げても逃げても まるで影踏み遊びをするみたいに
どこまででももどこまででも 追いかけてくるのです


ついてくんなよ あっち行け
お前なんかと一緒にされたくないんだよ あたしにかまわないでくれ
なんでそんな悲しそうな目で見るんだよ
そんな目で見ないでくれ 哀れむように人を見ないでくれ


最初っから解っていました
どこへ逃げたって何も変わらないことくらい
どこまでだってついてくる ついてきちゃうんです 
だってあのダメダメなあたしが あたしそのものなのだから


ああッもうッ イライラすんな
どうすりゃいい 何をすりゃいいのさ
目を向けた先には溜まりにたまった洗濯物が
とりあえずこの1週間分の洗濯物からなんとかしなきゃ
ぶつぶつ云いながら色物と白物をよりわけてネットにぶちこんで
洗濯機に放り込む
カップ一杯分の洗剤が健気にも
せっせせっせと汚れを落としてゆく
ぐるぐるぐるぐる ぐるぐるぐるぐる
汗もほこりも食べこぼしすらも
全部なかったことのように
まっさらさらに落としてゆく


     
          シミ付いたシャツは 洗濯機で洗えるけれど
          心にシミ付いた悲しみは どう洗い落とせばいいのですか


外は憎たらしいほど青々とした空が広がって
初春のおだやかな風になびくまっさらさらなシャツからは
かすかに漂うフローラルのかおり


生きることは穢れていくことなんだと
そういえばどこかの誰かがそんなこと云ってたっけ
生きることを漂白したら きっとただ白々しさだけが残るだけかもしれない
なんて 考えてみたらちょっと気持ち悪い


悲しみなんて本当は知りたくなんかないんだけれど
それが生きていくことだというのならば
どうしたって見たくないものも見なければならないし
聞きたくないことだって ちゃんと聞かなきゃダメなときがある


たかだか1度や2度の失敗で人生終わりみたいな顔して
寝ぼすけさん その顔鏡にうつしてよくよく見てごらんなさいな
ものすんごい マのヌケた顔してるから
それはそれで笑えないわけでもないけど
ほらほら 冷たい水でさっぱりと洗ってきたらいい
気持ちも少しはシャキッとなるから


やわらかい陽射しがふりそそぐ
まだ少し肌寒い3月の空になびくまっさらな白いシャツ
ありふれたいつもの光景が
光に乱反射して
そいつがあたしには
ひどくまぶしく見えて


思わず 思わず
眼を細めたのです




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ただ、一切は過ぎてゆきます

いつの間にか ひとりで街を歩けるようになりました
いつの間にか ひとりで喫茶店に入れるようにもなりました
いつの間にか あなたの声を思い出さなくなって
いつの間にか あなたを想って泣くこともなくなりました
あなたがいない世界なんて
あのころは想像もできなかったし
あなたなしで生きるなんて考えもしなかったけれど
案外平気に生きています


きっとあなたも同じなのでしょうね
私がいなくても あなたはあなたを生きている
いいえ きっとあなたは最初から
私なんかいなくても生きていけたでしょうけど


生きるってことは
ただそれだけで大変ですね
息を吸って吐いて寝て起きて働いて
ぎゅうぎゅう詰めの電車の中
逃れられない日々に守りたい自分などどこにありましょう


ただひとつ 言葉が足りなかったばかりに
ただひとつ 言葉が余計すぎたばかりに
壊さないように壊れないように
大事に大事に守っていたものでさえ
いとも容易く 心からすべりおちてしまう
散乱した破片を泣くことさえも敵わずに
笑うことしかできないそんな自分を繕う言い訳ばかりを
探しあぐねている情けない夜
 
握りつぶせない過去にがんじがらめになって
一歩も前に進めなくなってしまう
眠れないまま迎えた朝に
いつまでもずっと馴染めないまま
時計の針だけが刻一刻と 時を刻んでいる毎日


それでも それでも私たちはきっと
私たちが思うよりもずっとずっと
強く出来ているのだということを


流した涙もついた傷も
いずれは自然に治癒していくものなのですね
朝 冷たい水で顔を洗い
身支度を整えて今日へと歩き出す
そうやって毎日は過ぎてゆき
そうやって少しずつ記憶は遠ざかってゆきます
忘れることを悲しむんじゃないと
あのころあなたはよく云っていましたね



あなたの云うように
時は悲しんでる間もなく
あとからあとから流れてゆきます
きっとそうやって人は
生きていくものなのでしょうね



元気ですか
あのころ描いていた夢は
まだ追い続けてくれているでしょうか


私はまだ
相変わらずヘタクソな詩を書いています
悲しみはいつまでたっても悲しいままですね
でも その先がちゃんとあるということを
教えてくれたのは あなただったから
それがなんなのか知りたくて私は
まだ 言葉をいじくり続けています



2月の空はピンと張り詰めたように冷たく澄んで 
白く凍えた風が どこからともなく吹きすぎてゆきます
この空を どこかであなたも見ているでしょうか
たぶん見てはいないでしょうね
いまごろはきっと くしゃみを4回していることでしょう
それは風邪ではありません
風の便りです



長々と話してしまいました
くれぐれもお体大切に


どうかお元気で



さようなら
さようなら



さようなら





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関係者

彼女がひとりぼっちで 部屋の片隅で膝を抱えて震えていたとき
ノーテンキなボクはいつものように テレビの前でゲラゲラ笑ってた


彼女が例の彼氏と別れたって 人づてに知ったときも
ボクは取り立てて気にするでもなく 日々バイトに明け暮れてた


それから彼女があまり外を出歩かなくなったと 彼女の友達から聞かされたときも
久しぶりに部屋を訪ねてみたら 見る影もなくやせ細ってしまったと聞かされたときも
ボクにはカンケーないことだと聞かなかったフリをして
夜ごと飲んだくれては酔いつぶれて バカ騒ぎばっかしてた


風の吹くがごとく 彼女の噂は堪えることがなかった
外に出歩けないことになってるはずの彼女が
夜の繁華街で知らない男の腕に抱かれてただの
何着もの服を買いあさっては
店を出るなり おもむろにバッグからハサミを取り出して
半狂乱になってズタズタに切り裂きまくってただの
突然泣き出したかと思えば また突然に奇声をあげて叫んだり
親切なお節介焼きが いかにも心配してます風でボクのところへ持ってくる
ボクにはどうすることもできないよと 一言半句も云おうものなら
最低のクズ野郎呼ばわりさ
まったく敵いやしないじゃないか


彼女の心の中で何が起こっているのかなんて
ボクにも もちろん親切お節介にも理解できようはずがない
それでも何かが確実に彼女の中に浸食し 蝕み
壊れてしまった



2月某日
彼女は大量のクスリと強い酒を浴びるほどに飲み干して
あっけなく死んでしまった

その数時間前まで ボクは彼女と電話でしゃべってた
彼女の方から電話してくるなんてめずらしいなと思いながら
受話器越しの彼女の声は 落ち着いてるようにも
震えているようにも聞こえた
少しの沈黙のあと 彼女はなにか云いたそうだったけれど
弱虫で卑怯なボクだから
なんだかそれを聞くのが 聞いてしまうのが恐ろしくて
ひたすらバカなことばかりひとりでしゃべり続けたんだ


ただひたすら バカみたいにしゃべり続けていたんだ




カンケーないじゃんってフリをして





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曇り空のずっとずっと上の方は、いつだって晴れ晴れとしている

考えたって考えなくたって
この背中に背負い込んだ荷物が軽くなってくれるわけでもないのにさ
まぶたの裏にべったりとこびりついて離れない映像を
耳のずぅっと奥の方で いつまでも止むことのない声音を
よせばいいのに今日もまた 再生ボタンを押してしまうのです
激しく打ちのめされることは初めから予想できてるはずなのに
それでも何度も何度もリピートしてしまう 悲しい習性


生きる理由がどうしても必要だったの
ほんの束の間でも 記憶の呪縛から解放されるものならなんだって
一日中音楽を聴いてるときもあったわ
ネットで無料配信されている昔のドラマやアニメを
まるまる一本 徹夜で観続けたりもした
それはそれで 一時しのぎにはなったけれど
あてはめてみれば 決まって寸足らずで
決まって風邪ばかり引いてしまうのです
見上げる空はいつだって 泣きたいのを必死で我慢しているみたいで
星ひとつ見つけることさえできないのでした


出会った瞬間から用意されていたさよなら
みんな去っていきました 私の前からいなくなってしまいました
まるで夏から秋へと季節が過ぎ去っていくように
同じ時を過ごしていながら
互いの時計の針は少しずつ少しずつ 狂いはじめていたのですね
些細な出来事が引き金になって
いつも決まってケンカばかり
そうして悪者にされるのはいつだって私の方で
そういう構図がいつの間にか出来上がってしまっているから不思議です
そりゃまったく非がないとは云わないけれども
私ばかりが責められなければならない理由とは一体なんなのでしょうか
人間とはすべからくそういった生き物なのでしょうか
私ひとりが まったくもってピントのズレた人間なのでしょうか
考えれば考えるほど ほぐれない糸のように
人間というものが とてつもなく難解に思えてくるのです
ほとほと疲れてしまいました
いい加減こんな役 いち抜けたしたいところだけれど
一度決まってしまった役回りは 
どうやらそう簡単に降りることさえ出来ないらしいのです


踏みつけられたまま 黙っているほどお人好しだと思わないでください
流行りドラマの決め台詞ではないけれど
しばらく立ち直れなくなるくらい
傷つけ返してやりたいと本気で思ってしまう私です


やさしくしてほしいからやさしくするのです
はげましてほしいからため息をつくのです
大丈夫?って云ってほしいから
大丈夫じゃないフリをしてしまうのです
傷つきたくないから 自分から手を放してしまうのです
死ぬ気もないくせに いつだって死にたがってばかりです
負けず嫌いの負けっぱなしで
だから他人が幸福そうにしているのが我慢ならないのです
妬ましくて恨めしくて仕方がないのです
最低です 最低です私


いつからこんなふうになってしまったんだっけ
いつからこんなにも汚れてしまったんだっけ


もっとちゃんとした大人になってるはずだったのに
仕事をバリバリこなしてお金を貯めて
いつか自分の家を建てて幸福に暮らすんだって
小学生のときに書いた作文
煙草は喫みませんが アルコールはごくたまに
家を建てるどころか 日々の生活に追われるばかり
いつ治るともわからない病気を抱えて
薬を飲まなければ眠ることさえできない有様です
蹴られた背中が痛むのです 捻られた腕の関節が痛むのです
浴びせられた罵声が血肉となって体中を駆け巡り
お前など最初からいらなかった 邪魔な存在 必要ない人間だと
私というすべてを否定しにかかるのです


深い霧の中を彷徨い歩いているみたいに
いまだ幸福の尻尾さえも捕まえられもせず
38歳の冬が 静かにそっと過ぎようとしています


生きていてもいいですか なんて
一体私は 誰に尋ねているのでしょうね
何がどれだけあったら 幸福と云えるのでしょう
優しくされてもされなくても
きっと私は いつまでたっても淋しいままかもしれません
伸ばした手を ふりほどかれたときの
あの喩えようのない敗北感を
どの道忘れることなどきっと 出来そうにもありませんから




相変わらず空は厚い雲にびっしょりと覆われています
私は 前傾姿勢で立ち上がり
分厚い雲のずっとずっと向こうの方を
ただじっと 


睨みつけたんだ







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処方箋

笑うことが出来ないのなら
いまは ムリに笑ったりしないで
心のままにまかせていたっていいのです


理由もなく悲しくて
心が破れるくらい辛いなら
もう我慢なんてしないで
泣いたっていいのです
叫んだっていいのです


なにも罪にはならないのです
誰に遠慮がいるものですか
誰にそれを否定する権利があるものですか


人はただ 見たくないものに
蓋をしたいだけなのです
誰の中にだって 影は存在してるはずなのに
暗い人を見たがらないのは
自分の影に気づきたくないだけなのです
それに気づき 目を向けてしまうと
自分を見失いそうで怖いから
だからその気持ちを
無理やり否定しようとしてるだけ


だからいいのです 
笑えないときは
笑えないまんまで
涙が溢れて止まらないのなら
止めるのをやめてしまえばいい
そうすることでいくらかでも
楽になれるのなら


我慢は体に毒です
我慢すればいつか幸福になれるなんて
そんなのうそっぱちです
一つの我慢は
さらに次の我慢を生み
結局は永遠に我慢するハメになるのです
いつかの幸福なんて永遠にやってこないのです


いま湧き上がった感情にだけ
素直になりさえすれば
それでいいのです


ただ それだけで
十分なのです





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自称詩人

誰かを救いたがってる自称詩人は

溺れかかっている誰かに

自らの手ではなく 詩を投げつけるので

いつだって誰も救えなくて

いつもいじけてばかりいる




自分のことしか書けない自称詩人は

浅はかにも 他人の作品に

あーだこうだと文句をたれては

今日も紙面上にべったりと

ため息と自嘲と自意識過剰を貼り付けて

ニヤニヤ笑ってばかりいる




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レイン レイン レイン

雨の日って好きなのよね
だって何もしなくったって許してもらえるじゃない
こんなに眠くて仕方がないのだって
こんなに憂鬱でたまらないのだって
みんなみんな この雨のせいに出来るじゃない


雨音がちょうどいい音色で
あたしの耳に届くころ
忘れていたあの人の名を思い出す
あの人いまごろどうしているのやら
元気でやっているかしら
生きることに疲れてやしないかしら
忘れられない過去に 縛り付けられちゃいないかしら
あたしのことは きっともう忘れてしまっているわね
いやね いやねあたし
なんだかセンチな気分になってきちゃったわ
ジャスミンティでも入れるとしましょうか


ドライブには古い映画のDVD
トーキーよりもサイレント
こんな雨の日にはお似合いでしょ
おどけたふりしてチャーリーが
きっとあたしを笑わせてくれる
そう涙流れるくらいバカみたいに


晴れた日は苦手なの
太陽はすべてをさらけ出せと要求する
青い空は健全すぎるから
あたしの汚い部分を否応なく思い知らされる
そんなに責めなくたっていいじゃない
そんなに怒らなくたっていいじゃない
思い出したくないことだってあるのよ
ひっぱりだしたくない記憶だってあるのよ
太陽に愛されたひまわりも
あたしには怖くてたまらない


窓を濡らして落ちていく雨粒は
頬をつたう涙にも似て


だからあたしは雨の日が好き
こんなどうしようもない感情だって
雨音がすべてかき消してくれる
滲んで曇った窓ガラスには
悲しみの輪郭さえぼやけてみえる



なんだかうとうとしてきちゃったわ
雨音に耳を傾けて
このまま眠り堕ちてしまいましょうか
昨夜見た夢が 醒めてしまう前に
降り続く雨が 空ごと逃げてしまう前に





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雨音と古いレコードと | コメント:0 | トラックバック:0 |

突き刺さった破片はそう簡単に抜けそうにないけれど

小奇麗な言葉で曖昧にごまかすのには
もうほとほと 疲れてしまったから
そろそろ本当の話を始めましょうか
身もふたもない 本当の話を



忘れもしません
あれは私の保育園最後のお遊戯会の日でした
とおさん そんな日でもあなたは機嫌が悪くて
朝から些細なことでカッとなって
かあさんが今日のために用意してくれたお弁当のおかずを
次から次へと床に蹴散らしていきましたね
それから髪の毛を鷲掴みにして 顔が腫れ上がるほど
何度も何度も殴り続けましたね
私は怖くて 驚いてしまって
声をあげることも 助けることも何も出来なくて
何が起きてるのかも うまく理解できないまんまで


結局 お遊戯会は欠席になりました
かあさん あなたは何も云わず私の手を引いて
そのままタクシーに乗りこんだのでしたね
たどり着いたのは隣町の小さな映画館
人気の少ない劇場の片隅で
二人 声を殺して泣きましたね
スクリーンからは大音量の音が流れていたのに
誰の耳にも届きやしないのに
こみ上げてくる涙が喉を締め付けて
息を漏らすのがやっとやっとで


床に落ちた卵焼きがからあげがたこさんウィンナーが
こんなときでもケンカする両親が
小刻みに震えるあなたの肩先が
顔に残った青あざが 体中の痛みが
あなたを殴り続けながら 笑っていたあの男の顔が
何もできずにただ怯えるしかできなかった私が
震えるあなたの手を握り締めようとした時
すっと振りほどいたあなたが 何より悲しかった


こんなことを云っている私はきっと
どうかしているのでしょう
面の皮が厚いのですよ
恥を感じる頭がないのですよ 図々しいんですよきっと
子供のころから云われてきました
そうですね きっとそうなんですよ
だけど私にはいまだによく解らないんですよ
何が正しくて何が間違いなのか
何を信じればいいのか まったく解らないんですよ
こんなこと云ったら また嫌われてしまうでしょう
また背中を向けて どっかへ行ってしまうでしょう
でももういいんです それでもいいんです


かあさん
あなたの悲しみくらい 痛いほど解っていたつもりでした
解っていたから 何も云わないほうがいいんだって
自分さえ押し殺していればいいんだって
ずっとそんなふうに思ってきたけど

いくら見ないふりしたって 忘れたふりしたって
思いが消えてなくなるなんてことないんですよ
それで救われるなんてそんなこと 絶対ないんですよ
二十年も過ぎた今でも あの頃の映像が鮮明に蘇ってくるんですよ
そのたんびに 楽しいことも楽しんじゃいけないような
なんだかひどい罪を犯してしまってるような気がして
呼吸するのもままならないんですよ
どうやって生きていったらいいのか 全然わかんないんですよ
出来ることなら逃げ出したいですよ 
いっそ何もかも終わりにしちゃいたいですよ
けど そんなこと出来ないから
やっぱりおっかなくって出来ないから



だから だからせめて詩でくらい
本当の話をしたいのです

ただただ 声をあげて
泣きたいだけなのです


ごめんなさい
本当にごめんなさい




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