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縫いとじられない赤い糸

小奇麗な言葉で曖昧にごまかすのにはほとほと疲れてしまったから。そろそろ本当の話を始めませんか。身もふたもない、本当の話を。

あの頃少年は、行こうと思えばどこへだって行けるって頑なに信じてたっけ

ある日少年が目覚めてみると 
背中に翼が生えていました


とても大きくて重そうな翼です


少年は空を自由に飛びまわることが夢でした
なので嬉しくてうれしくて
早速その翼を羽ばたかせようとしました
しかし どうやって動かせばいいのか
少年はその方法を知りません


少年はどうにかしてこの翼を動かしたいと思いました
まず 背中にぐっと力を込めてみました
動きません
両手をばたつかせたらいけるんじゃないか
いける訳もありません
目を瞑り 鳥になったつもりになってみれば
少し高いところから飛んでみたらどうか
思いつくかぎりのことを少年は何度も
あきらめずに試し挑んでみました


しかし翼はうんともすんともピクリとも動かず
ただ両の羽どうしが 微かに擦りあう音だけが
空しく耳に残るのみでした


少年はだんだんイラつきはじめてきました
これだけのことをしてもなんともならないのはどういう訳か
やり方がまずいのか 要領が悪いのか
取扱説明書みたいなものはどこかに落ちてないかな
翼の広げ方なんてネット検索したってヒットするわけもないし
いきなり翼だけ生えてきたって どうすることもできないよ
こんな使えないもの 一体何のために生えてきたんだ
これじゃあただ重たい荷物を無理矢理背負い込まされただけじゃないか
こんな背中に翼生やして 外も歩けやしないよ


少年は 柄にもなくさっきまで浮かれていた自分を呪いました


そうしてあるひとつの考えに思い至ったのです
空を飛べたからってなんだっていうんんだ
きっとそんなにいいものでもないさ
自由に見えるのは ボクが飛べないからで
飛んだら飛んだで ボクには想像できない大変なことが
沢山たくさんあるに違いない


だって現に 飛び方も知らないボクは
こんなにも汗みどろになって
なんとか飛んでやろうと目の色変えて
血相変えて ああでもないこうでもないと
散々やり尽くしたあげく
こんなにもへとへとにくたくたになって
だからといってまったくもって楽しくもなんともなく
ただただ必死
息も絶え絶え


ボクが夢みてたのは こんな世界じゃなかった
どこからか吹いてくる風を感じ 風に乗り
誰にも何も邪魔されることなく
気の向くままどこへでも行ける
なんにでもなれる世界


そんな世界 あるはずないだろ


少年は背中から突き出した大きな翼を
洗面台の鏡に映しながら 自嘲気味に微笑んで
誰かに問いかけでもするみたいに
ひと言 こうつぶやきました



     コノ ヤッカイ デ ジャマッケ ナ
     オモタイ ツバサ ヲ 
     ダレ カ ヒッコヌイテ ハ 
     ク レ マ セ ン カ







テーマ:詩・想 - ジャンル:小説・文学

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