縫いとじられない赤い糸

小奇麗な言葉で曖昧にごまかすのにはほとほと疲れてしまったから。そろそろ本当の話を始めませんか。身もふたもない、本当の話を。

指先で語られる人生悲話

別に中島みゆきを聴いてるからって
いつもいつも 暗いことばかり考えてるわけじゃないのよ
部屋の明かりを全部消して
膝を抱えて震えてばかりいるわけでもないの


別に精神を患っているからって
いつもいつも死にたがってるわけじゃないのよ
寝付けないまま迎えた朝には吐き気をおぼえるけれども
それでも毎日ちゃんとちゃんと 
定刻どおりに電車は私を乗せていくし
ちゃんとちゃんと 
日々を消化することくらいはできるのよ


忙しいことはいいことなのかもしれないわ
心を亡くすとはよく云ったものよね
余計なことは考えずにすむものね
生まれた意味や 生きていく確かな理由
お金のことしか興味がない母親のこと
何度メールしても返事もよこさない友達のことや
もうずっと昔に去っていってしまった人のこと
私を忘れていったたくさんの人たちのことや
私が忘れていったたくさんの人たちのこと
それに 重たい言葉ばかり吐き出してしまう
この出来損ないの詩人の指先のことも
忙しく働いているときだけは思い出さなくてもいいんだもの
おかげで最近の私はとても健康的なのよ


健康的な そう健康的なはずなのに


一日の終わり
街灯の合間を縫うように身を縮めて歩いていると
とたんに顔を出す不安定な自分


いつもいつも 死にたいなんて考えてるわけじゃないのよ
ただ 人との付き合い方や距離のとり方
三十余年も生きてればそれなりに解ってはきたけれど
いまだに恐れてしまうのよ人というものに
過去を持ち出すなんて卑怯だけども
小さなことがいちいち気になってしまう
私に期待なんてしないで
私はあなたが思っているような立派な人間じゃないの
本当の私を知ったらきっとうんざりがっかりするに違いないもの
昔から人を怒らせるのは得意だったから
このやさしい人をいつか必ず怒らせてしまうに決まってる


    オマエ ナンカ イラナイ
    ダレニモ ヒツヨウトナンテ サレテイナイ
    イツマデ イキル キ デ イルンダイ

   
こんな自分 ズタズタに切り裂いて
姿かたちも残らないように全部全部燃やして灰にして
地中深くにうずめてしまいたい
二度と陽の目を見ないように


一体私は何を期待しているというのだろう
あの人がもどってきてくれるとでも
優しい言葉のひとつもかけてくれるとでも
向こうは私のことなんて
遠の昔に忘れてしまってるというのに
どうして私は忘れられないのかしら
あの人だけが優しいわけでもないのに
他にも男はいくらでもいるというのに


途方に暮れてふと顔を上げてみると
今にも落っこちそうな三日月が
冷たい闇の中でぶらぶら揺れていて
なんだかそれが深く強く
私の心を突き刺したの


ひとりで生きるって決めたじゃない
弱みを見せないって決めたじゃない
誰が私を必要としてくれるかじゃなくて
必要とされる人間にならなきゃダメだって
私じゃなけりゃダメだって そう思われなきゃダメだって
あの人が去っていったあの日
確かにそう決めたはずじゃない


人が怖いのは
きっとその人に期待してしまっているからなのよ
こうでなきゃいけない自分と
こうしてもらわなきゃいけない自分
勝手に決め付けて勝手に傷ついちゃってさ


まだ何にも諦めきれてもいないのに
何もかも悟ったみたいにあきらめたフリするの
もういい加減止めにしないか
いまはただちょっと 生きることに疲れてしまっているだけ
乱れた呼吸を整えるために 乾いた喉を癒すために
ほんのちょっと休憩しているだけ
もう一度立ち上がるために
もう一度歩きはじめるために
前を進むことだけが前進というわけじゃない
時には立ち止まってみることだって必要なはず


見上げれば漆黒の闇はどこまでも続いているし
人生もきっとそんなものなんじゃないかしら
何処まで続くかわからない闇の中を
月明かりのような青白い光をたよりに
辿っていくより他ないんだわきっと


過去はいつだって私を自由にしてくれないし
現実は容赦なく私を弄りつける


ひどい裏切りに いつか人を信じられなくなっても
出会ってきたすべてのことが
間違ってたなんて云いたくないよ絶対



疲れた体を引きずるように部屋にたどり着くと
思いがけない人からの着信ありのメッセージ


「もしもし、元気にしてますか」





「もしもし、私は元気です」





テーマ: - ジャンル:小説・文学

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