縫いとじられない赤い糸

小奇麗な言葉で曖昧にごまかすのにはほとほと疲れてしまったから。そろそろ本当の話を始めませんか。身もふたもない、本当の話を。

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供述

きょう僕は 人をひとり殺しました
気の早いクリスマスソングが
街中に流れはじめたから
きらびやかなイルミネーションが
とてもとてもキレイで眩しすぎたから


きょう僕は 人をひとり殺しました
通りすがりの人でした
黒いロングコートを着ていました
ひどく疲れた顔をした人でした
苦虫をかみつぶしたような顔をしていました
深い深いため息を
いくつもいくつも吐き出していました
タバコ臭いにおいがしました
自分のついたため息がまるで胎児を包む羊膜のように
護られているようでいながら 
一方で閉じ込められてでもいるかのような
不思議な生き苦しさを纏った人でした


きょう僕は 人をひとり殺しました
彼が醸し出す そこはかとない不幸せな空気感が
僕の胸ぐらを掴んで放しませんでした
しわがれた顔で虚ろに淋し気に笑うその表情には
すべてを悟りきったかのような静かな諦めがにじんでいました 


ふいに西風が 僕の頬を弄るように去っていきました
瞬間 かすかにささやくような声が聞こえたような気がしました
雑踏にかき消されてしまいそうなほど小さく か細い声でしたが
たしかに僕は その声を捉えました
頭から電流を流されたような気持ちでした
諦めなんてそんな 生ぬるいものなんかじゃなかったのだ
彼は生きているなにもかもに絶望してしまっていたのだ
捨ててしまいたいのだ お終いにしてしまいたいのだ
僕は核心的にそう確信しました
僕は なんだかよくわからないものにひどく興奮し
そうしてわなわなと全身を震わせました
湧き上がる欲求を 抑えることができませんでした
だから殺しました 
間違いありません
僕が殺ったんです



相変わらず街にはクリスマスソングが流れ続けていました



         ジングルベル
            ジングルベル 鈴がなる

         ジングルベル
            ジングルベル
               誰のために鈴はなる

         ジングルベル ジングルベル
            僕のためのベルは多分
               もう一生鳴ることはないのでしょうね




きょう僕は 人をひとり殺しました
あまりにも哀しそうな顔をしていたから



あしたはきっと
誰かが僕を 殺してくれる





テーマ: - ジャンル:小説・文学

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